すごく昔に一度読もうと思ったけどページ数の多さから結局読まなかった本。だけど、最近なんか勢いで購入してしまって読んだ。


闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達


Windows NT のプロジェクトを綴った本。プロジェクトを束ねるカトラー氏の生い立ちやマイクロソフトに入社するまでの流れから始まり、リリース、後日談が描かれている。割と「そういうところから解説するの??」みたいなものも多く、別にソフトウェア開発に携わってなくても読めそうな内容。

登場人物

とにかく登場人物が多く、400ページ強のうち数十ページが登場人物の人物紹介に割かれている気がする。当初あまりにころころと新しい登場人物が出てくるので必要性に疑問を抱いたが、結果的にプロジェクトの巨大さと、携わった人の多様さを描くという観点でこれはよかったと感じた。

  • 燃え尽きる人
  • 婚約解消する人
  • 豪邸建てたのにオフィスで寝泊まりする人
  • 手紙を放置しすぎて水道を止められる人
  • プロジェクト終盤にストックオプションを放棄して会社を辞める人
  • プロジェクトが終わってクビになった人
  • ソフトウェア開発から身を引いた人

大勢の人がいて、それぞれの人生があるというのを実感できると思う。また、意外にもCS出身者が人が少ない。ただ、基本的に家柄的に富裕層が多い印象(カトラー氏は貧困層)だった。

登場人物が多いのはプロジェクトに携わった人物にインタビューを行って繋ぎ合わせたものだかららしい。てっきりMS公認の本かと思っていたが、あとがきに下記のような記述がある。

マイクロソフト社は、本書の内容について確認、検討、承認を一切行っていない。NT総責任者のポール・マリッツは、わたしの要請にこたえて、取材に協力した社員に一切懲罰をくわえないと約束した。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.6494-6496)

これを言葉通り受け取るかどうかはともかく、既に書いた通りプロジェクトの規模と多様さを描くにはよかったのではないか。(ちなみにマリッツ氏自身もインタビュイーに入っていた。ビル・ゲイツ氏は入ってなかった)

仕事のやり方

最後には、優れた作品は愛情と暴力によって創造されるのだと知った。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.162-163)

本の中に「死の行進」という章がある通り、プロジェクトは困難を極めたというのもよくわかる。全体的にワーカーホリックすぎる。今の世論ならぶっ叩かれまくってるだろうというようなものがひたすらに多い。自分がこの業界に入ったときはまだどちらかというとこの本に近しいイメージではあったと思う。今はある程度変わってきている(し、それを通り越して外向きにはなんかキラキラした業界みたいなイメージになってしまっている)が、時代の流れなんだなぁと思う。

わたしの望みは、目の前の仕事を仕上げることにある。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達 (Kindle の位置No.6391)

軍隊を彷彿とさせるが、ある種プロ中のプロというイメージ。わりかし「仕事だからやる」というスタンスの人が多かった印象。この業界でやってるといろいろと浮ついたしょうもない話にまどわされがちになるけど、結局そういうのは(ほぼ)幻想に近いので、最近はここまでとはいわないけど、やれる範囲で文句言わずにやるというスタンスがベターな気がしている。そういうある種のプロの心構えみたいな側面が多く描かれている。もちろん、ここまでハードなまでにはやりたくないけど。


部門や性別間での軋轢。方針をめぐるぶつかり合いや政治的なアレコレ。お互い相手がやるだろうと思い込んでいた。など、コミュニケーションの問題はこの時代から存在するし、その解消方法(の一手段として)が親睦会とかがあるのも変わらないっぽい。結局この手の問題が不変かつ長く使えるテクニックのような気もした。

バルマー氏が見切り発車で機能を発表したりするのウケル。

開発

この頃から互換性に相当こだわっていたということがわかる。また、この時点(1990年前後)で既にかなり自動でテストしていたっぽい。これは驚いた。

しょっちゅうビルト担当者という言葉がでてくる。ビルド担当者の存在自体はJenkinsの川口さんのブログかインタビューかで知っていたが、自分が業界に入ったときにはとっくになかったので、この仕事の内容を初めて具体的に知ることができた。単純にビルドするだけではなくて、如何に高速化するかなどもやっていたっぽい。

意外さ

読んでいると意外にもMSクラスの人でもそういう感じなんだ…。と思うことも多い。

恐怖心から、いつも必死にはたらいている
Kindleの位置No.665-666

これはビル・ゲイツ氏の心境だが、意外に思う人も多いと思う。他にも…

五日間、奮闘した後、改訂だけではすまないことに気づいた。全面的に書き直すしかない。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.5157)

本人がやれば十秒でできる仕事でも、半日かかることになる
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.5665)

普段やっていると上記のようなことはよくあるわけで、これは自分のレベルの問題だと思っていたが、凄い人でもやっぱりそういうのはあるというのはわかった(もちろん躓く問題のレベルが違うとは思うが)

気に入ったフレーズ

人生がくだらないものだということを、思い出させてくれる。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.1585)

やる気がなくなってきたとは自覚していたが、理由はわからなかった。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.1861-1862)

ウォルト[ムーア]がいなければ、仕事は進まないと思えるときがある。しかし、つぎの瞬間には、なんの役にも立たない人間になっている
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.4245-4246)

これは全てプロジェクト終盤にクビになってしまったムーア氏に関する言葉で、どれも虚無さが際立っていてよさが滲み出ている。ちなみにムーア氏はクビになったあと兄弟が経営する会社に入ってプログラミングに復帰したらしい。

所感


ソフトウエアのすべての分野にわたって深い知識を維持していくことは、だれにもできない。ゲイツにすらできない。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.6315-6316)

最悪のときにもおなじ態度をつらぬくのが効率的
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達(Kindleの位置No.4639-4640)

そう、仕事は無理なものを追いかけて苦しまずに粛々とこなせばいいというのを思い出させる本でよかった。