確か数年前にどなたかのソフトウェアエンジニアの方のブログの記事一覧を流し読みしていた時(そのブログ自体はもともとなにかの技術系の記事でたどり着いたと思う)にこの本の読書感想を見かけてその時に表紙が強く印象に残っていました。


蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

祝祭と予感

※ちなみに上下巻版は今年出たものなので、その時見かけたのは単巻版のはず


それから長い間忘れ去っていたのですが、半年くらい前にKindleのレコメンドか何かで表示されて、表紙が印象に残っていたこともあって、あらすじを読んでみました。どうもピアノコンクールの小説らしいというのはわかったのですが、読むにあたって変にフィルターをかけてしまう自分が容易に想像できたのでその時はあらすじを読む以上のことはしませんでした。しなかったのですが、つい2週間ほど前に、以前教わっていたピアノの先生のブログでこの作品の映画版について言及してあり(絶賛上映中のようです)それをみて読んでみようかな。という気持ちがわいてきました。

わいてきたのはいいんですが、ページ数を確認すると紙で上下巻あわせて1,000ページ近くもあります。もう長らくこんな長いものは読んでないし、これは絶対積読になると思いました。思ったものの読んでみたいという気持ちを抑えることができない。こういう時に電子書籍は便利でサンプルがダウンロードできます。Kindleのサンプルはたぶん全ページ数に対する5%(?)くらいまで読めるようになっていて、目次もしくは前書きだけで終わってしまうサンプルもある(困ったことに結構な割合で存在する)けれども、この本はページ数が多いのでそこそこの量を読むことができました。

それだけ読めれば判断するには十分で、そのまま上下巻をまとめて購入、上巻まるまるをうっかり徹夜して一気に読んでしまいました。寝ないといけない…が続きが気になってしまう。結局その後も1時間くらい読み続けて、合計6時間ほどかけて下巻の30%くらいまで読んでしまいました。休みの日でよかった。自分は普段いろんな物事をかなり集中力を切らせながらやってるので、ここまで一気に読むことができたというのは自分でも驚きでもありました。

コンクール参加者のお互いを高めあう点、音楽を届けるという点を、おそらく蜜蜂という言葉で、そして音楽という聴こえるがどこにあるかわからないという存在を遠雷という言葉にしてタイトルにしたんじゃないかと思います。個人の解釈ですが、こういうのは国語の授業っぽいですね。こういうのを考えるのは面白いですが、流石にここまで長いと読み直して何回も考えるとかいうのは難しく(読書に割くことができる時間も限られているので)要するに時間がないというのは厳しい。つまり人生は厳しいです。

内容はコンクールの演奏が延々と続くのですが、まあ、よくこれだけ調べたなぁ。と驚きです。作者の恩田陸さんももちろん音楽のプロというわけではないと思いますが、いやぁ、本当にものすごく調べないとここまで書けないんじゃないかなぁと。私は自分がやる曲以外はだいたい知らないので、結果的にほとんど知らない曲ばかりですし、内容の正否もわかりませんが、あの手この手の言葉を尽くして音楽を表現されており、曲は知らなくともその曲の背景的なのは伝わってくると思います。ただ、流石にコンクールの一次予選から描いているだけあって、曲の描写が占める割合はかなり多く、人によってはしんどいと感じることもあるのではないかと思いました。それは作者も感じているのか、編集者の方が書いたあとがきで…

「これ、面白いのかな。こんな音楽と演奏が延々、続くだけの話」

と恩田陸さんがおっしゃったと書かれていました。ここ以外にも編集者の方のあとがきで作者の恩田さんがナーバスであったととれる場面は多々あるのですが、どうも7年間の連載だったということらしく、そりゃあ、ナーバスにもなるよなぁ。と。私なんてたかが数年の間で自分の生き方について気持ち的な上がり下がりがあるわけで、7年も続けた連載の本が伝わるか、伝わらないかとか、それはもう耐えられないだろうなぁと思いました。まず普通の人は7年も継続してなにかをするというのができないので、小説家というのは如何に忍耐強さが要求される職業なんだろうか。と思ったりもしました。この辺りの気持ちは作中にちりばめられています。後は7年の連載となれば、なんかいろいろブレが文章にも出てくるんじゃないかなぁ。と思ったりもするんですが、そういったこともなく、物書きのプロはすごいなぁという雑な感想。

一気に読んでしまった。ということはのめり込んだということでもあるとは思うのですが、とはいえ、こういった類のものはやはりピアノコンクールという題材お決まりのセオリーみたいなのがあるようで、他作品と比べて似たような描写もあったりして、この辺りはやはり結果的にそうなってしまうのかなぁ。ということと、音楽を文章で表現するとなるとどうしてもおおげさにしないと伝わらないのだろう。というのは理解できるのですが、それでも読み続けると、だんだん少しくどいかなと思うこともありました。

ラストの、本選の順位はなぜそうしたのかがよくわからなかった。というのが正直なところで、少なくとも自分は2位の人が1位になるだろうと予想していました。それに対する答えがみつかるかもしれないというのもあって購入したのがスピンオフの「祝祭と予感」だったわけですが、残念ながらざっと読んだ感じだと答えは見つかりませんでした。こちらは「蜜蜂と遠雷」のエピローグや登場人物の過去などに焦点を当てた6つの短編集で「蜜蜂と遠雷」とは異なり演奏的な表現や描写はほとんどないです。

そこだけ結論がでないのがモヤモヤしますが、後は全体的にあたたかみ溢れる感じでよかったです。おわり。