あまり世間一般的にセンシティブな扱いと思われるようなもの、特に病気などに関わるようなものを専門でもない人間が安易に記述するべきではないかと思ったりもした(たとえそれが感想文のようなものであったとしても)のですが、読書感想と備忘録は残しておきたいので問題なさそうな範囲で書き残しておきます。


ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》


この本はこころと脳の相談室で有名な林 公一先生の著書です。本のザックリした内容は先生ご自身がこの辺とかこの辺に書いてあるので購入にあたってはそちらが参考になると思います。私は電子書籍版で読みました。電子書籍版は紙版をベースに内容を追記してあるようです。

本は全6章で構成されています。

  • 症状
  • 治療
  • 無治療
  • 再発
  • 生活
  • 予防

各章でその章に該当する実例を交えながら統合失調症についての解説が進みます。実例は本人、家族、医師の診断といったさまざまな観点をもとにしています。精神科Q&Aの統合失調症の中から取り上げられているものなどもありました。例えば本の1章のケース1-6などは【1541】皆と同じようにipodの手術を受けたいが取り上げられています。このケースは非常に印象に残っていたのでQAから取り上げられたものだとすぐにわかりました。このように文章の半分近くが実例ではないかと思います。(電子書籍版の出版は2014年なのでそれ以降のQAからはないと思われます)

章は意味のある単位で分かれており、事例も各章に代表するものが取り上げられていますが、全体を通して内容が分断されているということはありません。むしろ以前の章の内容も含めて繰り返し同じ説明があります。人によってはくどいと感じることもあるかもしれないですが、そのおかげで非常に頭に残ります。余談ですが、私は普段技術書の内容が全く頭に残らないのですが、それはどの技術書もこの本のように繰り返し同じ説明がでてくることがない(技術書という特性上容量的にも難しい)からではないかと思いました。のに加えて技術書はそんなに集中して読んでない

著者あとがきに次のような言葉があります。

事実とは、その一部を記載しただけでは事実を記載したとは言えない。 (中略) 一般読者向けに、統合失調症についての明るい事実も暗い事実も分け隔てなく描いた本を書いた。

林 公一 ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》 (Kindle の位置No.3635-3641) Kindle 版 より

悪化した結果、よくない結末(自殺など)に至ったケースもあります。その反面、治療を受けて良くなったり普通の生活を送っているようなケースもあります。「治療すれば最初の症状はまずおさまる」「治療しないと悪化する」「治療を続けないと再発する」これらは繰り返し述べられていますが、両方の面、症状が悪化したケースと治療を受けてよくなったケースを用いながら繰り返し繰り返し説明があるので内容はしっかり頭に残るでしょう。再発については治療を中断して再発するケースが多いということ、またやめた場合の実際の再発率等にも言及してあり、如何に継続して治療することが重要かということがわかります。その反面、治療した場合に至って普通に生活を送っている実例も多く紹介されています。

監修者あとがきで

虫歯になったら、歯医者さんに行く。歯医者さんで治療を受ければ、虫歯はよくなる。歯医者さんに行かなければ、虫歯は治らない。痛くても我慢して放置していると、だんだんひどくなる。

林 公一 ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》 (Kindle の位置No.3607-3609) Kindle 版 より

という記述があります。本の中には悪化していても信じられないくらいに頑なに精神科を受診しないケースがいくつか紹介されます。私も歯が痛くなっても歯医者に行きたくないので気持ちはわからなくもないですが、何の病気にしても変に先延ばししない、良いように解釈しない、自己判断するべきではなく、まずちゃんと病院に行く。そして医師の指示に従って継続して治療を受ける。そうするのが結局一番良いというのを改めて思います(自身への強い戒め含めて)治療を疑問に思えばセカンドオピニオンで別の病院を受診すればよい(精神科QAを見てると特に精神的なものに関しては病院を変えるというのは難しい判断になるようですが)ですし。(歯医者だとマジでヤブでその場で信じられないような治療をいきなり始めてしまう信じられないくらいアレな医院がある上に取り返しがつかない[1]のが難しいところではありますが…)

治療の重要性の次に印象に残ったのは発症率の高さでした。100人に1人だそうです。本の6章で妹さんが患ったケースでは姉による次のような記述があります。

きっと私自身の周囲に今まで何人もこの病気を抱えた方がいらっしゃっただろうな、とは思うのですが、あまり世間体のよい病名ではなく、皆さんそれぞれ隠していらっしゃるのかもしれません。

林 公一 ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》 (Kindle の位置No.3365-3367) Kindle 版 より

これは本当にその通りだな。と思いました。統合失調症の症状の一つに生活レベルが低下して引きこもってしまうようなケースもあるようですが、私の学生の時も学校に来なくなった同級生が何人かいました。特に若い方が発症しやすいとのこともあって、10代での事例もいくつも紹介されています。もしかしたら、彼ら彼女らもそうだったのかもしれないと。また、自殺者のうち10人に1人は統合失調症を罹患していた[2]という記述もあり、特に10代の自殺についてニュースで見聞きしたりするとそうかもしれないという考えてもなにかできるわけでも、わかるわけでもないのですが、そういうことが頭をよぎるようにもなりました。

私はこの病気について知ってからずっと「統合失調症に対する知識のある人間が統合失調症になることはあるのか?なった場合に病識を持てるのか?」というのが疑問でした。本の中にはこれらのケースについても解説があります。

他の統合失調症の実例を知っても、そして自分の体験がそれらとよく似ていることがわかっても、それでも自分はそういう人とは違うと考える。ケース2―3と同じで、これは統合失調症の人が自分の症状について解釈する場合のごく一般的 なパターンです。

林 公一 ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》(Kindle の位置No.956-958) Kindle 版 より

というふうに、残念ながら知識があっても発症するようです。また、発症後に調べて自分が統合失調症ではないかという病識をもつケースについても記述がありました。この本でこれらの疑問を解消できたのは良かったです。良かったのですが、これはある意味周りが気づかないと詰む可能性が高いということでもあり、発症率の高さと世間一般的な病気に対する認識のレベルというのを考えると、発症しても誰も気づかない、また気づいた後も適切な対処がとられない可能性がありなかなか厳しい感があります。

その他、費用(治療費や仕事ができないことによる損失)について(これがまた驚くくらいスゴイ金額)や薬の開発の難しさ、病気の症状や倫理的な観点からの研究の難しさといった、症状以外について言及してあります。私のようにIT業界で働く人間としては(ソフトウェア開発手法やその成果という面で)その変化の速度はすさまじく、あらゆるものがものすごい勢いで解明されて世界は変わっていってしまうのではないかと錯覚したりもする (まあ、使用されている技術の根本の部分はそんなに変わってないと思いますが) のですが、こうやって研究のところを読んだりすると、他分野ではそうでもなく、なかなか難しいものなのだなと思ったりもします。

本を読んでよかったと思えたのは、統合失調症に対する知識はさることながら、個人的には「他者の人生の背景についてより想像を張り巡らせる機会となった」という点だと思います。日頃余裕のない生活を送っているとなかなか他の人のことを考えたり、その人生に思考を張り巡らせる機会が少なくなってしまうのですが、こういう普段自分が接することのないジャンルに触れながらそれらに接するというのは非常によいものです。特にそれが専門的なものを通じてであればあるほどなおさらだと思います。

一点だけ残念だったのは図が拡大できなかったことです。スマホで読んでいたのですが、スマホだと流石に拡大できないと厳しいサイズの図でした。PCで読み直せば済むのですが、やはりこういったのは読んでいるその時に確認できるのがベストではあると思いますので。

その他


この本とは関係ないのですが、最近のQAでコンサータによって自己の連続性を失いつつあるというのがあり、その回答にあった「<わたし>はどこにあるのか ガザニガ脳科学講義」が読みたかったのですが、紙しかなく、Amazonで頼んだものの在庫が確保できなかったようで注文後キャンセルになってしまいました。中古は新品より高く、ちょっとどうしようかなというところです…。

また、普段読む本は技術書が多いのですが、業務でソフトウェア関連のアレコレをやりながらも、それ以外でもソフトウェア関連の技術書を読むのはもう正直お腹いっぱい(だいたい積読になる)で、ソフトウェアに浸りたくないという気持ちもあり、もっと他ジャンルの本を読んでいきたいと思いました。


  1. 実体験 ↩︎

  2. 林公一 ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》 (Kindle の位置No.1848-1849) Kindle 版 ↩︎